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初めて
手の甲にカミソリ負けがあった。女性でもムダ毛が生えるというのは何となく知っていた。でも、霧島さんの手は、白くて線が細くて、しなやかで綺麗だ。今は傷だらけでも、その面影は残っている。
これ以上考えていると、無意識に彼女の手を見てしまうだろうか。また、彼女は恥ずかしがってしまうだろうか。
「ねえ、文理分けの試験授業。今日はどうするー?」
震えていた声が、いつもの語尾が伸びた歌うような声に変わった。なんだか安心した。彼女の声が震えているのは、どんな理由であれ、胸に悪い。
「ああ、文系に決めたんだろ」
「まあ、そうなんだけどさー。ちょっと理系も受けてみようかなーって。文系選択が変わるわけじゃないけどっ」
「じゃあ、受けるだけ無駄じゃないか?」
「……そういうこと言わないのっ」
どうしてそんなことを言うのだろう。昨日は理系科目は解けても性に合ってないなんて言ってたくせに。
「そんなことを言って、全然わからなくても知らないからなっ」
一時限目、地理。
二時限目、数学。
三時限目、物理。
昼休みのチャイムが僕には、審判の合図に聞こえた。スリーストライク、バッターアウト。
全然理解が追いつかなかった。彼女が隣の席から、にやにやと笑っている。少し腹立たしい。
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