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このままじゃ、彼女のペースだ。話題を変えよう。
「そう言えば、決めたのか」
「なーにをー?」
彼女は歌いながら、僕のひとつ前の机。もう主のいない放課後の机に腰を下ろして、綺麗な脚を水の張ってないプールに投げ出して、バタ足をした。膝までの長さのスカートが、机に紺色のクロスをかぶせていた。
「文系か、理系か」
高校のはじめの一年が過ぎようとしていた。
さっき考えていたことがよぎる。人が人のために決めたものには、境目があるのだなあ。
「空太は決めたの?」
「理系に行こうと思う。霧島さんは?」
「文系だよ」
「でも霧島さんは数学の成績、僕よりもいいじゃないか」
意外だった。見た目で言えば、彼女は文学少女だ。実際、本をよく読んでいる。本をめくる細くて綺麗な指。字を撫でる透き通った瞳。
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