謎は謎でいい。

2/6
前へ
/118ページ
次へ
 このままじゃ、彼女のペースだ。話題を変えよう。 「そう言えば、決めたのか」 「なーにをー?」  彼女は歌いながら、僕のひとつ前の机。もう主のいない放課後の机に腰を下ろして、綺麗な脚を水の張ってないプールに投げ出して、バタ足をした。膝までの長さのスカートが、机に紺色のクロスをかぶせていた。 「文系か、理系か」  高校のはじめの一年が過ぎようとしていた。  さっき考えていたことがよぎる。人が人のために決めたものには、境目があるのだなあ。 「空太は決めたの?」 「理系に行こうと思う。霧島さんは?」 「文系だよ」 「でも霧島さんは数学の成績、僕よりもいいじゃないか」  意外だった。見た目で言えば、彼女は文学少女だ。実際、本をよく読んでいる。本をめくる細くて綺麗な指。字を撫でる透き通った瞳。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加