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「好みの問題ね。解けても好きじゃないの。数字にはね、人間のエゴが見えるの。物理は自然を数字で語ろうとして、数字で語れば分かって支配したように思える。でも本当は何もわかっていない。まるで自然の美しい川の流れを作り変えてるみたいで好きじゃない」
「よ、よく分からないけど、最初は純粋な興味だったんじゃ」
「純粋な興味が、みんなが欲しいものだとも思わない。みんなが欲しいものは、何かを支配する力」
こういう表現をするのが彼女らしいところ。そして決まってどこか悲しげな表情をする。「空しい」と唇が動いてしまいそうな。
「でもそれが今の便利な世の中を」
「はいはいはい。ごりっぱごりっぱーっ」
ぱんぱんと乾いた拍手を調子外れの音色で鳴らす。シンバルを叩く猿のおもちゃみたいな動き。思わず神経を逆なでされたような気分になって、顔をしかめた。
「分かってるけど、あたしはそういうの性に合ってない」
「性に?」
「だって、このまますべてが分かってしまったら。謎がなくなって、きっとこの世界がつまらなくなるわ。みんなはすべてが分かると思い込んでる。感情が全て数式で説明できて、結局人間は分子でできた機械でした。そんな結末が来たら、嫌でしょ? あたしが思うに、謎は謎でいいの」
分かるような気はするけど、心まで動かされることはなかった。けど、彼女の気持ちは尊重したい。
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