謎は謎でいい。

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 彼女は能動的で僕は受動的。だから、僕は社会からそれとなく強要された理系に進む。文系に行っても理系に行っても、結局楽しんだり、芽が出たりするのは彼女みたいな能動的な人間だ。僕は彼女にはなれない。  自己嫌悪にも似たような感情が僕の瞳を濁らせる。僕の瞳は、彼女の右手に輝くブレスレットを捉えた。それに埋め込まれていた宝石は、奇妙だった。 「ねぇ、霧島さん。そのブレスレットの宝石……」 「うん? この琥珀のこと?」 「虫が入ってるよ」  蟻のような虫が、琥珀という名の宝石に閉じ込められていた。色だって透き通っているわけじゃない。濁っていて輝きも鈍い。泡が入っていて、もがき苦しむ蟻が吐いたもののように見える。 「虫が入ってるからいいのよ。琥珀は樹液が固まって宝石になったものなの。樹液に溺れた虫は、一緒に固まって悠久の時を経て、こうして人々に愛でられる。ずっと美しく死にながら、生きている」  蟻は死んでいる。でもそれが閉じ込められた琥珀は、彼女に愛されているから生きているんだという。よく分からなかった。その琥珀の色を映したような明るい茶色をした彼女の瞳の方が、僕には綺麗に映る。彼女は確かに、僕の目の前で生きている。対して、僕の視界の中では、その琥珀は死んでいた。  死にながら生きている。いや、死んでいたら死んでいるじゃないか。つまらない、と言われそうだから黙っていた。
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