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「じゃあ、次は、イチゴちゃんへの質問を受け付けまぁす!
質問ある人~~」
某月某日・都内某所。
屋外のイベント会場にて。
とある映画の試写会兼、主演アイドルグループのファンイベントが開催されていた。
メインを飾るのは、人気急上昇中アイドル、もぎたてフルーツ新鮮組のメンバー三人。
桃ノ木イチゴ、桃ノ木レモン、桃ノ木メロン。
中でも桃ノ木イチゴは圧倒的な人気を誇っていた。
レモン、メロンにつづく三番目の質問だったが、彼女への質問に手をあげるファンが、群を抜いて多い。
若い男性だけでなく、若い女性や中年男性、小学生ぐらいの女の子なども手をあげている。
「うーん、だれにしようかなぁ」
司会進行役の若い女が迷った素振りを見せる。
「――じゃあ、そこの、バンダナが素敵なお兄さん!」
指名されたのは、二十代前半とおぼしき、ネルシャツの男。
べったりとした長い髪、痩せ細った体躯。
見るからにオタクといった風貌の青年だった。
「ちっ、運のいい奴だ」
青年と同じような年齢、同じ様なタイプの近くにいた男が舌打ちをし、そう呟くが――
(運じゃねぇよ、バーカ)
立ち上がりながら男を睥睨し、青年は内心そうつぶやいた。
青年の名は肝尾拓也。
通称キモタク。
高校の時はクラスメイトにそうあだ名され、馬鹿にされていた。
このキモタクと呼ばれる青年は、知っていたのだ。
自分が指名されることを。
(大枚はたいた甲斐があったぜ)
このために決して少なくはない額の金をスタッフに握らせ、司会の女に自分を指名させるよう仕組んだのだから。
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