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「……わたしは死んだのかしら?」
わたしは浮遊しながら、遥か下で泣いているキョウコと鳴いているポチを見つめていた。
わたしの体はアスファルトの上に寝そべっていた。ピクリとも動かない。これが幽体離脱というものなのだろう。しかしその割に、待てど暮らせど天使様はやってこない。退屈だ。ここはまだ天国ではないけれど、死ぬということはヒサオさんの言う通り退屈なのかもしれない。
「いや、死んではいない」
気が付くと、ヒサオさんが横に立っていた。
ここは地上から三メートル程の上空だが、うまく状態が保てず回転してしまうわたしと違い、ヒサオさんは慣れた様子で垂直に停止していた。さすがはヒサオさんだ。
ヒサオさんは下を見つめ、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ワシはどうやら勘違いしていたらしい。今日亡くなるのは、お隣のお宅の竹田ヨネさんだった。しばらく入院していたが、末期ガンで余命宣告をされ、先週から自宅に戻ってきていたらしい。同じ『五丁目のヨネさん』だったから勘違いしてしまった。すまない。お前はただビックリして気絶しているだけだから、じきに目を覚ますだろう」
「まあ」
わたしは驚いた。
お隣の竹田さんがそんなに病状が悪かったとは知らなかった。
随分と仲良くさせてもらっていたのに、とても悲しい。今すぐにでも駆けつけたい。
だけれど、地上のわたしは目を覚まさない。気付くと、竹田さんの息子さんとルカちゃんがお隣から出てきていた。ルカちゃんはまだ五歳だから、ポチが室内にいるのに誤って玄関を開けてしまったのだろう。
それと同時に、羽の生えた天使様が空の向こうからやってくるのが見えた。天使様は血に濡れたカマを持っていた。今竹田さんがお亡くなりになろうとしているのに、息子さんとルカちゃんはキョウコと一緒にわたしの様子を見ている。申し訳ない気持ちになった。
ポチがルカちゃんに抱っこされる。いつもは外にいるポチのリードがないのは、一緒に室内で竹田さんを見送ろうとしていたからかもしれない。
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