エンディングノート

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   *  竹田さんの家のポチの遠吠えで目が覚めた。  時計を見ると朝の五時だった。障子の向こうはまだ真っ暗で、太陽は昇っていなかった。  天使様がいらっしゃるのは何時なのだろうか。聞いておけばよかった。ヒサオさんは今日中と言っていたから、夕方以降と考えていいだろうか。  布団の中から手を伸ばし、リモコンで暖房を付ける。部屋が暖まるのを待ちながら、ヒサオさんが置いていったコクヨのCampusノートを開く。  中には特に何も書かれていなかった。真っ白な罫線入りノートだ。とりあえずそのノートを持ち、わたしはキョウコの元へ向かった。古い日本家屋である我が家はとても寒くて、わたしの今日の死因はヒートショックかもしれないと思った。  一人娘のキョウコは、隣の和室ですやすやと寝ていた。 「キョウコ、起きて。えんでぃんぐのーとって何をどう書くのか、調べてくれないかしら」 「……え? ……何よ、まだ五時じゃない。休日くらいゆっくりさせてよ」 「急いでるの。今日は特別なのよ」  キョウコが目を擦りつつ上半身を起こす。寝ぼけたまま、脇に置かれていたすまーとふぉんを手に取り操作し始めた。  しばらくすると、キョウコはすまーとふぉんに表示された文字を読み上げた。 「エンディングノートとは、自分が死ぬ前に自分の情報や希望を書き残しておくもの。内容は例えば、友人の連絡先、葬儀の内容、みんなに残したいメッセージなど。へえ、既に項目が書かれた専用のノートも売ってるのね」 「まあ」  わたしは驚いた。  専用のノートがあったのだ。  空欄穴埋め式になっていれば、何をどう書くか悩まないですんだのに。でも、ヒサオさんがシンプルなノートを置いていったのは「自由に書きなさい」というヒサオさんなりのメッセージだったのだろう。さすがはヒサオさんだ。  キョウコはすまーとふぉんを枕元にポイと捨てると、また布団に戻った。 「とは言えあまりフォーマットはなくて、自分の気になることから書いていったらいいみたいね。どうしたのお母さん。あたかも今日死ぬかのような顔をして」 「今日は特別なのよ」  わたしはいそいそと自分の部屋に戻った。  
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