エンディングノート

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   *  横浜の海沿いの道からは、雲ひとつない晴天と穏やかな海が一望できた。  遠くに見えるビル群や船を眺めながら、のんびりと歩く。二月の空気は冷たいが朝よりは暖かくなっていた。少し冷たい潮風さえなければ、コートを脱いで走り出せるような気がした。  そう、若い頃のように。 「気持ちいいわねえ、キョウコ。やっぱり来てよかったわ」 「いや、先週もこの道通ったじゃん。お母さんとうとうボケちゃったんじゃないでしょうね」  わたしたちは、一軒の中華料理店の行列に並んだ。  少しばかり待って中に入ると、油の心地いい匂いがした。水餃子を注文する。美味でしかない。歳を取って少食になったわたしだが、あまりのおいしさにペロリと一皿を平らげた。 「おいしいわねえ、キョウコ。やっぱり来てよかったわ」 「いや、先週もこの店でこれ食べたじゃん。お母さんとうとうボケちゃったんじゃないでしょうね」  食べ終わると店を出て、また少し散歩をする。  気まぐれで雑貨屋を覗いたり、緑の景色を楽しみながら高台の公園へ辿り着く。  気付けば、夕暮れが迫っていた。  楽しい時間などあっという間だ。歳を取ったからそう感じるのではない……楽しい人生など、あっという間なのだ。  わたしは橙色に染まりつつある海を見下ろしながら、物思いに耽った。  
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