エンディングノート

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   *  わたしたちは帰路についた。  電車の中で、キョウコはわたしの肩に寄りかかり眠っていた。  わたしは毎朝自然と早く目が覚めてしまうけれど、キョウコはもっと眠っていたかったのだろう。無理をさせてしまい申し訳ない気持ちになった。  電車の窓からは、建物の向こうに沈もうとしている夕日が見える。  わたしは鞄の中からエンディングノートを出し、膝の上に開いた。  そしてペンを握る。  さて。何を書こうかしら……。  二時間をかけ、わたしたちは我が家のある最寄駅へと戻ってきた。  日はすっかり暮れ、街灯の明かりが家をぼんやりと照らしていた。しかし家の戸を開けようとして、あることを思い出す。 「……あ、忘れてたわ! 豆乳を買ってこなきゃ」 「え、今からスーパーに戻るの? なんで豆乳?」 「今夜は白菜と豆乳のスープを作りたいから」  そう言って来た道を引き返そうとした。しかしキョウコに引き止められる。 「明日にすればいいじゃん。こんな時間からそんな凝ったもの作らなくても……」 「今日は特別なのよ」  そう言った瞬間。  お隣の竹田さんの家のドアが開き、何かが体にぶつかった。  衝撃で、体勢が崩れる。 「……お母さん!」  キョウコが叫ぶ。しかし、その姿が不意に見えなくなる。  視界には、茶色い何かが覆いかぶさっていた。  ……竹田さんの家で飼っているポチだ。  あら……どうしたのかしら。いつもは大人しいのに。  そう言えば、今朝も遠吠えをしていたわ。いつもはそんなに吠えたりしないのに。なんだか悲しそうな顔をして、どうしたのかしら。  一体、どうしたのかしら……。  
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