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やるせない一夜
家に帰った僕は、祖父母に僕の「出生の秘密」について問いただした。
概要は先生から聞いたけれど、祖父母にも確かめたかった。
僕の父と母が出会った時、既に父には妻子がいて、二人は不倫の関係になった。そして、僕ができた。
母は自分で育てると言い切ったが、難産で僕を産んだ直後に死んだ。
父は祖父母に謝罪し、僕の養育費、教育費全てを負担すると申し出た。
今回の件は、祖父母も了承済みで、いわば、父と、僕の異母姉である先生と祖父母との計略だった訳だ。
「じいちゃんも ばあちゃんも、何で黙ってたんだよ!」
僕が怒鳴った。
「だから、お前が高校を卒業したら話そうという事になっていたんだよ」
祖父がタバコを持つ手を震わせて言った。
僕は言葉が見つからず、自室にこもった。昼間の先生との食事を思い出したら吐き気がしてきた。
あんなに想っていた先生に対して憎悪さえ湧いてきた。
未成年でなかったら、自棄酒でも飲んでやりたい。
放心状態で何時間もベッドに横たわっていた。
時おり祖母が僕の部屋の様子を窺っている気配がする。畜生!こんな事で世をはかなんだりする僕じゃない。放っておいてくれ。
いつの間にか僕は眠っていた。目覚めたら、スマホに誰かからラインが来ていた。矢島さんからだった。
「秋村君、おめでとう。私も滑り止め受かったよ」
そういえば、眠っている間、夢に矢島さんが現れた。いつか部活で彼女が言っていた言葉が聞こえた。
「嫌な事があっても、いい映画を観ると忘れちゃうの」
僕は吐息をつき、スマホの時計を見て慌てた。
遅刻しちゃうじゃないか!
「無理に行かなくても……」
そう言う祖母を振り切って僕は飛び出した。
「まだ卒業した訳じゃないんだよ!」
教室に駆け込むと、出欠を取り終わった後だった。
「秋村、アウト!志望校受かって気が緩んだか?まだ卒業するまではウチの生徒だぞ」
担任の宮沢先生に出席簿で小突かれた。
休み時間、トイレに行った後、廊下で山岡先生とすれ違った。僕はわざと頭を下げた。
山岡先生の後に僕の視界に入ったのは矢島さんだった。
「矢島さん!」
僕が呼びかけると彼女は素っ頓狂な表情で こちらを見た。
「矢島さん、今日、学校終わったら、映画行かないか?矢島さんお薦めのミニシアター系とか」
「うん。いいよ」
放課後二人で映画を観に行く約束をした。
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