751人が本棚に入れています
本棚に追加
第十四章 了
九十七話
季節は夏から秋へ移り、銀杏の葉が燃えるように色づいた頃、柳小路成は中学校の相談室を訪れていた。
予定の時間から二十分を過ぎたが、待ち人はまだ来ない。既に陽は傾き、西日が窓から射し込んでいる。
帰ろうかな―――と思った時、唐突に扉が開いた。
「いや~、悪い悪い。待たせたな。」
ノックもなしに入ってきたのは、待ち人である担任の古山俊輔だった。
成の向かいの椅子を引き、どさりと座る。
「そういえば、柳小路、観たぞ。プリンスが出てたな。将棋プロ棋士特集。」
「ああ、出てましたね。」
古山は、従兄の河埜里弓をプリンスと呼ぶ。成の耳にも、すっかり定着してしまった。
「さすがの里弓様、王子様。麗しい過ぎて、テレビ画面すら直視するの勿体無かったぞ。」
「先生、里弓兄のファン過ぎるでしょ。」
「おいおい、ファンなどと軽々しく呼ばれたくないな。もう、あれだ。信者だ。河埜教があったら入れてくれ。喜んで布教もするぞ。」
「―――バカじゃないですか。」
「教師に向かって、バカとは何だ。」
「だったら、教師らしい事、言ってくださいよ。」
「違うぞ。軽い冗談で、緊張してる生徒を和ませようと、―――で、何かあったのか?」
まごまごと言い訳をしていた古山だったが、誤魔化せないと悟ったらしく途中で投げ捨て、単刀直入に聞いてきた。軽く尋ねたように聞こえたが、顔を見れば自分への心配を滲ませている。
適当に見えるが、意外と心配性で、面倒見がいい先生なのだ。
「いえ。問題があった訳ではなくて、これを提出しようと思って。」
机に用意していたプリントをひっくり返し、表を上にして、古山の方へ滑らせた。
「ん?何のプリント―――」
最初のコメントを投稿しよう!