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「教室や職員室では人目があるので、相談室を使わせてもらいました。」
プリントへ視線を落として固まっていた古山が、わなわなと震えたかと思ったら、唐突に雄叫びを上げた。
「つ、つ、番だと~!?」
「先生、外に聞こえてしまいます。もう少し音量を下げてください。」
「ままま、待て待て。相手の欄に、プリンスの名前がある気がする。夢か。幻覚か。」
「幻覚な訳ないでしょ。はっきり里弓兄の名前が書いてありますから、目を逸らさず見てください。」
「う、ぉぉお~!」
古山が目を血走らせながら、『番申請書』のプリントを凝視する。かなり怖い。
随分と衝撃を受けている古山へ、成は淡々と説明を付け加えた。
「先日、役所に番届けを出しました。無事に受理されましたので、中学校にもプリントを提出します。」
「なんて冷静さだ、柳小路。先生ひとりテンション高くて寂しいわ。―――分かった。学校には提出しておく。」
「よろしくお願いします。」
「は~い。」
話は終わったと、古山がヒラヒラと手を振る。もっと根掘り葉掘り聞かれるかと思っていたので、成は拍子抜けして椅子から立った。
「あ、柳小路。」
成がドアに手を掛けた時に、古山から呼び止められた。振り返ると、ひどく優しい瞳とかち合う。
それが、いつもの古山らしくもなく、あまりに慈愛に満ちたもので、成は思わず息を飲む。
柔らかな橙の光の中で、おめでとう―――と、古山から祝福を告げられた。
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