第一章 歩

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―――くっそ、何が悪くないだ。最悪だろっ。 あまりの恥ずかしさと悔しさに、視界がじわじわと潤み出した。ここで泣いてしまえば、里弓からますますバカにされる。 「手が思い付かないからって、こんな適当に打ってんじゃ、プロになっても四段止まりだな。成は。」 涙が浮かんだ目でキッと睨むと、里弓が底意地の悪い顔で笑う。 「いくら俺を睨んでも、将棋は上手くなりませんが~。」 「分かってるよ!里弓兄の意地悪!」 「バカ言うなよ。俺の優しさが伝わらないとは、残念な奴だな。」 里弓が呆れたように言いながら、首を横に振る。 「里弓兄のどこに優しさが!?」 「苛められたいおまえに付き合ってやってるだろ?俺って、ほんと優しい。」 「ちょっと、人を変態みたいに言わないでよ!」 真っ赤な顔をして言う成に、里弓が可哀想なものでも見るように同情の顔をして見せる。 「立派な変態だろう。毎度毎度けちょんけちょんに言われてて、それでも俺とやりたがるんだから。」 「ちが~う!僕は、僕はただ、」 ―――昔のように、 言いたかった言葉は喉の奥に詰まり、成の口から出てこようとしなかった。文句ならいくらでも言えるのに、素直に問うことができない。 いつからか里弓との距離は開いたまま。今では、その距離がどれくらい開いているのかよく分からなくなっている。
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