750人が本棚に入れています
本棚に追加
/186ページ
―――くっそ、何が悪くないだ。最悪だろっ。
あまりの恥ずかしさと悔しさに、視界がじわじわと潤み出した。ここで泣いてしまえば、里弓からますますバカにされる。
「手が思い付かないからって、こんな適当に打ってんじゃ、プロになっても四段止まりだな。成は。」
涙が浮かんだ目でキッと睨むと、里弓が底意地の悪い顔で笑う。
「いくら俺を睨んでも、将棋は上手くなりませんが~。」
「分かってるよ!里弓兄の意地悪!」
「バカ言うなよ。俺の優しさが伝わらないとは、残念な奴だな。」
里弓が呆れたように言いながら、首を横に振る。
「里弓兄のどこに優しさが!?」
「苛められたいおまえに付き合ってやってるだろ?俺って、ほんと優しい。」
「ちょっと、人を変態みたいに言わないでよ!」
真っ赤な顔をして言う成に、里弓が可哀想なものでも見るように同情の顔をして見せる。
「立派な変態だろう。毎度毎度けちょんけちょんに言われてて、それでも俺とやりたがるんだから。」
「ちが~う!僕は、僕はただ、」
―――昔のように、
言いたかった言葉は喉の奥に詰まり、成の口から出てこようとしなかった。文句ならいくらでも言えるのに、素直に問うことができない。
いつからか里弓との距離は開いたまま。今では、その距離がどれくらい開いているのかよく分からなくなっている。
最初のコメントを投稿しよう!