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第四話
成が将棋会館の掲示板を見上げていると、ポンッと肩を叩かれた。
「柳。」
少し高めの明るい声。
顔を見ずとも声だけで、永岡竜馬(ながおかりょうま)だと分かった。
永岡は成より二歳上で、高等学校の二年生。奨励会(プロになる前のアマチュア棋士)の中では、今期トップ集団の中で爆走中だ。
しかし、振り返るとそこには永岡の顔ではなく、視界いっぱいに里弓の写真があった。
しかも、その里弓がアイドル顔負けの嘘臭い笑みを浮かべている。
「うわ、なにそれ。」
「『飛将』の今月号。知らなかったのか?」
里弓の写真の後ろから顔を出して、永岡が首を傾げる。この『飛将』は、将棋界では唯一の公式な雑誌だ。
いつもは発売と同時に家にあるのだが、今月号は何故か行方不明で見ておらず、表紙に里弓が載ってるとは知らなかった。
恐らく、また里弓本人の仕業だろう。自己顕示欲が強い癖に、家族に見られる事はひどく嫌がる所がある。
「里弓さん、すげぇカッコいいぞ。」
永岡が『飛将』をペラペラと捲り、成はそれを横から覗き込んだ。今月の特集は里弓で、ファッション雑誌さながらの写真が何ページにも載っている。
「柳、見てないなら、読めば?」
「うん、ごめん。ちょっと借りる。」
雑誌を受けとると、成はすぐ横のベンチへ腰を下ろした。一ページ目を開くと、シックなスーツを身につけた里弓がモデルのようで、成の口から乾いた笑いが出る。
―――なるほどね。見せるのを嫌がった訳だ。
里弓は若い天才棋士として、将棋をしない一般の人からも有名だ。良い広告塔として、『飛将』に関わらず様々な雑誌で特集されている。
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