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父は碓氷村出身で、アルペンスキーの競技で2回、冬季五輪に出場した。母は外から来た人だけど、スキーはプロ並みだったと思う。俺も物心ついた頃にはスイスイ滑っていた。
近所の子ども達と朝から晩まで雪まみれで遊び、呼吸するように雪上スポーツを覚える。それが普通。至って普通。他にやる事もないし手軽だし身近だし、みんな滑るしみんな飛ぶ。こんな小さな村からワールドクラスの選手を輩出できるのは、やっぱり環境が大きいんだろうと思う。
中でも柊さんはずば抜けた経歴の持ち主だ。
14才でプロスノーボーダーになり、ソルトレイクのフリースタイルハーフパイプに於いて史上最年少で金メダルを獲得。トリノで銀、2年前のソチでまた銀と、バンクーバーでの5位を除いて三度、五輪の表彰台に上った。その他、国内外の大会でも華々しい受賞歴を誇る。ずば抜け方も桁違いにスゴい、それが喜多川柊。
幼い俺の目に映るあの人は、まさに天使だった。大きな翼を持った天使。
だって、翼がないとあんなに飛べない。しなやかな手足と柔らかい背中、猫のような敏捷性。
あの人は飛ぶために、宙を舞うために生まれて来たんだ、きっと。
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