たとえ死んでも離さない

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  『タイチの今一番の希望はなんですか?』 『早く雪が降って欲しいです』 『おや。せっかく出会えたのに、もうお別れのお話ですね』 最初の授業の時、パトリック先生はそう言って笑った。年も背格好も親父に少し似ているからか隣に居て落ち着く人だ。優しくて、子ども達や動物達が授業中の部屋にいても咎めない。ラブラドールレトリーバーのケンイチ君が足元にいても少しも動じない。ただ、猫と大きい鳥は少し苦手なんだそうだ。 フランス語ってとにかく耳慣れないのが一番のハードルだ。紙の上なら何とかなっても会話では消し飛ぶことが多々ある。筆談で乗り切るのはやはり不可能だろうか…… 「Vous pouvez vous y habituer. (慣れるしかないね)」 「シュウとの日常会話をフランス語にして貰えばよろしいのです」 西川家の子ども達は家庭教師について勉強する子、学校に通う子、それぞれ自分に合った勉強法で学んでいるらしい。 「そう言えば、西川さんはどうしてるの?」 「レコーディングです。子ども達はスタジオに近付いてはいけないルールです。アモーがメープルシロップになってしまうので」 「メープルシロップ」 「はい。特にアレックスとカインには、もうメープルシロップをかけた砂糖菓子のようだとアオイがいつも言っています」 なんとなく想像がつく。
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