たとえ死んでも離さない

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  バンクーバーは秋が深まり日に日に寒くなる。アパートの暖炉に薪は要らないそうで、管理人のグレンさんが液体燃料を各戸に配ってくれた。柊はこれまでエアコンとオイルヒーターしか使ってなかったらしいけど。 L字型のカウチソファに柊と二人L字型に寝そべって、ゆらゆら揺れる炎を見るでもなく見ていると眠たくなる。 「Coupe tes cheveux.」 「ごめん、えーと髪の毛?を?」 「 “髪を切りなさい” 」 「 “Coupe tes cheveux.” 」 「Oui.」 確かに村を出てからほったらかしで、随分伸びてる自覚はある。そう遠からず西川さんみたいに顔面が半分しか見えなくなりそうだ。 「俺もそろそろ切らないとヨーコさんが怒り出すかなー」 「柊はそのままでいいだろ。俺と違って手櫛で流せるし」 「タイチの猫っ毛はすっとんとんで纏まらないもんなー」 そっと髪に触れてみる。痛んだ毛先だけカットして、長さはこのままにしといて欲しいな。 「タイチは長い髪が好き?」 「うん、綺麗だから長い方がいい。昔ドレッドにしちゃった時はショックだった。そのあと金髪の坊主頭にした時も」 柊は笑って、何故か耳の下あたりの匂いをスンスン嗅ぎにくる。くすぐったい。
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