たとえ死んでも離さない

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  眼下にはセントローレンス川。もう陽が暮れそうだけど、展望台には夜景を楽しむ観光客がたくさん居る。あちこちに出ている屋台からコーヒーとメープルシロップの香りが漂ってくる。 「広い空だよなー」 「……………」 「明日はパウダースノーで滑りまくりだぞー」 「……………」 「怖い?」 そんなこと、聞かなきゃわからないのか。柊が傍にいてくれるからなんとか気持ちを保っていられること、柊にはわからないのか。 「そんな捨て犬みたいな顔しない」 「犬なら誰かが拾ってくれるのに」 「おまえなー」 「怖い。今夜は柊がいてくれないと怖くて眠れない」 明日の為にたくさん練習したけど、俺はまた飛べなくなるかも知れないのに。柊やスタッフさん、西川さん達の期待を裏切ってしまうかも知れないのに。失望させるかも知れないのに。 「タイチ、こっち見ろ」 「イヤ」 「俺に逆らうのか」 「逆らう」 逆らって怒られても、柊が傍にいてくれるならそれでいい。今日だけはどうしても我儘を通したい。柊に仕事があるなら部屋でおとなしく待ってるから。お願いだから。 「じゃあもう……好きにしろ」 目線が上げられない。『好きにしろ』なんて、そんな突き放すような言い方初めてだ。恐る恐る振り返ると、柊の背中がどんどん小さくなって。やがて観光客の向こうに消えてしまった。
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