鳥のように飛べ

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   竜の背のてっぺんには注連縄の張られた大きな岩『竜頭(りゅうず)』が埋まっている。麓の碓氷神社の御神体だ。 『自分たち村人が生きて行けるのは竜神様が背中をお貸しくださっているからだ』と子どもの頃から懇々と教えられてきた。なので朝食の前には竜頭の方向に向かって手を合わせ、感謝の気持ちをお伝えする。  方向がわからなければ頭に思い描くだけでも構わないらしいけど、俺の場合は竜頭の位置がわからなくなるほど遠くに行ったことがない。この先もきっとそうだと思う。 「親父、朝メシ」 「さんきゅー♪太一(たいち)がいると朝から豪華で嬉しいっちゃー」 「だし巻き焼いただけだ。あとは昨日の残り物。親父ももうちょっと考えんと」 「竜神様と太一に感謝して、いただきます」  その声に釣られ反射的に手を合わせる。  まったく、幼少時からの刷り込みって馬鹿にできない。
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