十九.目無し死体の謎

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十九.目無し死体の謎

 丸いすずりにたっぷりと墨汁が溜まっている。鏡のような墨汁が部屋の天井を映している。  四方から細い筆が伸びてその映像を乱した。すずりが丸いのは四方から使いやすいためだ。  パチパチとソロバンの音だけが響いている。ここは高句麗王都の主税寮だ。百名ほどの会計官が並んで大蔵寮から送られた貢ぎ物の送付状を集計している。  地方からの貢ぎ物は月末に集計され主計寮へ回される。  主計寮は予算作成を担当し主税寮は税収を管轄した。主計寮に族長の子弟たちが集まるのは江戸時代の勘定奉行と似ている。いつの時代でも税収の計算よりもその分配こそ注目されるのだろう。  主税寮には各部族の数学的な秀才が集まっていた。彼らは夜明けとともに登庁し正午までソロバンを弾いた。  月半ばの満月の日から集計が始まり半月後の月末新月の日が積算の期日だった。この時代の官僚制は陰陽のセットだったが、月が欠けていく半月に働くのが主税寮だったから彼らが陰気で主計寮が陽気だったのだろう。     
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