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瘴気も望みの大きさにより質を変え、悪意から殺意へと変わり、粘度でも弾力でもなく、鋭さを備える。
第四望の裾を踏むのは一級禍触師の最終試験以来だが、渡りきれない事はない。
(さあ……いよいよだ)
俺が床の感触を靴裏で確認していると、ミランダが柄を握ったまま呟く。
「第四望でこの聖剣が引き抜けるなら、過去の誰かが抜いているか……ならば」
ミレーネの背で、黄金の月見草が、瞬く間に五本の櫂を備えた舟に変わる。
「第……五望……?」
初めて目にした。
それは、神のみが望める事に匹敵する願い。
トゥリュスの裾も激しく反応し、禍触師でなくとも視認できる程に瘴気の濃さを増す。
瘴気は目まぐるしく質を変え、裾の上に存在するもの全てを破壊しようと待ち受ける。
「……ぅ……ぁ……」
俺は呻き、体が勝手に後ずさる。
第五望の背に到達出来た禍触師は、これまでのところいない。
「さあ、どうする?」
女帝が俺に問う。
俺は後ずさる足を叱咤し、必死に止め、前進に転ずる。
やらねばならなかった。
喘ぎに似た呼吸を整えきれないまま、俺は裾へ踏み込む。
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