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背を被う鋼の瘴気はそのままであったが、爪を剥がしながら、皮膚を裂かれながら、左手が硬化した瘴気に分け入る。
そして、遂に背に触れる。
(やっと)
辿り着いた。
それは、この裾の長さの、たった二歩の距離の事ではない。
幼き頃に村を焼き出され、孤児となり、王妃に拾われ、禍触師となり、宮廷で女帝の来訪を待った長い長い年月の事だ。
女帝の背に触れたのは、指先ではなく、ナイフの切っ先であった。
「貴様ッ!?」
護衛達が腰の剣を引き抜く。
(もう遅い……)
この様に、女帝は常に一騎当千のリガル兵に守られている。
また、女帝自身が稀代の剣士でもある。
単なる禍触師である俺が、女帝の無防備な背に近付く方法はこれしかなかったのだ。
「ドルガ村の仇!死ッ!」
だが、今まさに背に埋まろうとしていたナイフの先で、黄金の舟が櫂を一本増やし、六本となる。
第六望。
神が明日に見る希望に匹敵する望み。
トゥリュスの裾は、その上に在る全ての存在を拒絶し、十の障壁を展開する。
障壁に弾かれた俺は部屋の壁に叩きつけられ、崩れ落ち、仰向けとなって倒れる。
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