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「良い。アレの悪趣味で死ぬ様な男でもあるまい」
「はっ」
女帝は騎士を引き連れて去って行く。
独り残された俺を、静寂が包み込む。それが、ただの静寂なのか、死の淵の静けさなのかは分からない。
やがて、その静寂の中に足音が聞こえた。
硬い靴音であり、俺の脇に若い女が立つ。
「私は二級禍触師のネイリーン」
痩せ気味であり、俺に触れるほど黒髪が長い。
「聞く気力もないと思うけど、言っておくわ」
聞く気力はおろか、生きる気力を振り絞るだけで精一杯であった。
復讐心にすがり付き、瀕死の体で生を保つ。
「貴方の歳から言うと、村が焼き討ちにあったのは二十年前よね?まだ先帝の時代で、リガル兵のお行儀が悪かった時代よ。今の帝は規律を引き締め、民への無法は決して許さない」
女は踵で俺を転がし、うつ伏せとする。
「私達にとっては良い王様なの。考え直してもらえないかしら?まあ、一応、命令だから傷は治してあげるけど」
ふわりと、俺の肩にマントが掛かる。
呪衣だ。
女はそのまま俺の髪を鷲掴みにし、浮いた顎の下にもう片手を差し入れる。
「さてと、私の趣味は聞いたかしら?」
「ぐ……?」
「貴方の命に対する執着は第何望かしら?私に見せてもらえる?楽しみ」
彼女は「キャハ」と笑い、顎の下の手を一気に横へ引き抜く。
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