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身の丈の倍はあるガウン。
余った裾が扇状に芝の生えた地面を覆う。
それは純白なのではなく、柄が入っていないため、ただ単に白一色になっただけの衣。
柄は、これを着た人間の穢れ、つまり血こそ相応しいと、古の織姫が呪詛を織り交ぜ、仕立て、人類に遺した物だ。
だが、織姫は間違っていた。
人間の穢れの最たる物は血などではなく、その欲望であった。
穢れを好む衣は人間の願望を柄として現し、具体化された願望は魔力の刺激により現実のものとなる。
そして、今、呪衣をまとった女の背に、黄金の櫂を備えた舟が刺繍となって現れる。
禍触師である俺が刺繍に触れ、発動の鍵となる魔力を送り込めば、女の望みは叶う。
城の片隅、月の下で若い女が望む事は一つしかない。
待ち合わせをした意中の男性に恋心を伝え、成就させる事だ。
女の背にある舟に触れるため、俺は後ろから近づく。
必然的に足が裾を踏み込む。
(く……)
裾の上には瘴気が立ち込めていた。
それはネトリと粘度を持ち、禍々しい。
衣は織姫が仕立てた物だが、長い裾を付け足したのは後世の大魔導師トゥリュスだ。
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