27人が本棚に入れています
本棚に追加
「憂鬱そうですね」
リガル帝国の女帝ミランダは、瀟洒な窓から視線を移し、ベリングの髭面へ向ける。
「憂鬱ではない」
確かに、振り向いた女帝の瞳は、憂鬱などというお淑やかなものではなかった。
「今日はサクノスの王太子が到着する」
サクノス王国は大陸の東に位置する大国であり、リガルの宗主国でもある。
「唯一の救いは、ここが我が城ではないという事だ。奴が敷居を跨ぐと思うと虫唾が走る」
現在、ミランダは、同盟国であるキャミル王国の城に滞在中であり、同じ様にサクノスの傘下にある各国の代表が集められていた。
ベリングがウンザリとした様子で言う。
「今回は何の用件ですかね?」
「また、無理難題を吹っ掛けて、各国から欲しい物を手に入れるつもりだろう。まあ、大体は訪れた国からごっそり持っていくがな」
「この国なら何でもホイホイ渡しそうですね。あの太っちょの事なかれ王では」
ミランダの不機嫌そうな瞳はそのままであったが、その下で、ルージュの引かれた唇がわずかに上がる。
「それは分からない。この城には食わせ者がいるからな」
最初のコメントを投稿しよう!