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「あの禍触師ですか?確かに騙されましたな。今思えば、我々を夜の庭園に呼び出した匿名の手紙、あれも奴の仕業でしょう」
「マティスの事ではない。奴がどんなに小賢しくとも、結局は一介の禍触師に過ぎない。私が言っているのは王妃の方だ」
「王妃?色恋沙汰にしか興味が無い、普通の娘に見えましたが?」
「私とサクノス王国に共通点があるとしたら、それは同じ野望を抱いている事だ。私が欲しい物はサクノスも欲しい、サクノスが欲しい物は私も欲しい」
何が言いたいのか分からず、ベリングは次の言葉を待つ。
「あの逢い引き相手である男爵、私には一目で分かった。切っ掛けさえあれば、いくらでも化ける男だ。私がこの城へ来た途端、王妃はまんまと手中にした。マティスといい、男爵といい、私が欲しいと思うもの全てを王妃は手元に置いている。本当の価値を見抜く才がある。他人に取られる前に、価値ある物を必死に掻き集めている。厄介な女だ」
「つまり、陛下にとって厄介な相手は、サクノスにとっても厄介だと」
「易々とサクノスの言いなりにはなるまい」
ミランダはそう言うと、再び窓へ視線を移す。
眼下では、ちょうど城の門扉が開くところであった。
扉の向こうから風になびくサクノスの旗が現れると、いよいよミランダの眉間に刻まれたシワは深くなる。
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