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呪衣がやすやすと人間の望みを叶え、この世の秩序を壊さぬ様にとの戒めだ。
瘴気は俺の手足を搦め捕ろうとし、また、光を奪うため、目蓋の内に入り込もうとする。
裾の端から背まではたった二歩の距離だが、遠い。
俺は素早く瘴気の隙間を縫って頭を潜らせ、腕を通し、踵を半転させて己の胴に後を追わせる。
それは舞に似ており、俺は歪な舞を舞い、手の平を金糸の舟に当てる。
刺繍でありながら、二本の櫂が動き出す。
女が口にした告白が、王への忠誠という心の甲冑を剥ぎ取り、騎士の逞しい腕を王妃に伸ばさせ、懐へ抱かせる。
ゆっくりと唇を重ねた後、王妃は去っていく。
騎士の瞳に映る月の光が、下瞼の縁で二つに分かれ、頬を下っていく。
王への忠誠を守れなかった哀しみ。
そして、瞳に残った光が、俺に向けられる。
「貴様……何故だ……」
「悪いな。男爵」
「何故、こんな事に、彼女に協力した!?」
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