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もはや、瘴気に隙間は無く、在るのは濃淡による揺らぎだけだ。
俺は全身の神経を研ぎ澄まし、様々に形を変える揺らぎに手足を添わせて舟に接近し、指先を背に当てる。
三本の櫂が同時に動く。
望みを叶える力の発動だ。
俺は裾から退き、一礼する。
「どうぞ」
「速いな」
ベリングが感嘆する。
リガル帝国の唯一であり最大の泣き所は、優秀な禍触師がいない事だ。
どんなに剣技に優れ、領土的野望を抱こうとも、優秀な禍触師がいなければ他国に遅れを取る。
「これだから銭のある国は羨ましい。これを男女の逢い引きにしか活かせんとは、贅沢と言うか馬鹿と言うか……いや、馬鹿だな」
ベリングはそう言い、剣を引き抜く。
俺はフロアに備え付けられた二本の松明を手に取り、ロウソクの炎を移す。
そして、扉を押し開いたベリングの後に続き、部屋に入る。
内は暗闇であり、俺は奥へ松明を放り、次いで、そこから十歩程離れた位置に松明を放る。
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