3/19
366人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
 バイトが終わると、その足で稔さんの家に向かう為にスマホを取り出す。  今日は日勤で夜には家にいるはずだった。  僕は慣れてしまったから良いものの、側からみればやっぱりストーカーのように感じる。  あんまりにも続くようなら、さすがに問い詰められてしまうだろう。それに、稔さんの職場の人たちにも怪しまれてしまいそうだ。  もしかしたら、すでに気づかれているかもしれないけど……。 「玲くん」  まさかの声に驚いて顔をあげる。今まさに会いにいこうと思っていた、男が目の前に現れる。 「……稔さん」  僕は呆然として、スマホを持った手を下ろす。 「今日久々のバイトでしょ? 心配になっちゃって」  迎えに来たんだよと、付け足して稔さんが微笑む。 「稔さん……話があるんです」  僕は緊張で、少し声が上ずってしまう。 「僕も話があるんだ。ちょうどよかった」  そう言って、僕の手を握るとアパートに向かって歩きだす。  見られたらまずいなという気持ちもあった。それ以上に、なんて言えばバイト先に来るのを止めてもらえるか、そのことが頭の中を占めていた。 「玲くん。思い悩んだ顔をしてるね。僕のこと?」  稔さんが沈んだ声で、図星をついてくる。 「稔さん……バイト先の人に稔さんの事を不思議に思っている人がいるんです」  ストーカーと疑っているんですよと、率直に言えるほど僕の肝は座っていなかった。 「僕がいるときばかり、お店に来るからって……」  稔さんの歩みが止まる。  僕も、歩みを止めて稔さんを見上げる。  暗い夜道で稔さんの表情がいまいち分かりにくい。  逆ギレされたらどうしようと、少しだけ不安に駆られる。 「迷惑かけるつもりはないと言いながら、迷惑かけてしまっていたんだね。ごめん」  稔さんの沈痛な声音が、住宅街に静かに響く。僕は少しだけ、ホッとする。 「自分でもいけないことだと分かってる。でも、君のことが心配でね」  再び、歩みを進める。僕は複雑な気持ちで、稔さんの手を握り返す。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!