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 僕はアパートの鉄階段を上がると、角部屋の自分の部屋に鍵を挿そうとポケットに手を入れた。  いつもなら触れるはずの硬い感触がいつまで経っても得られず、一気に血の気が引いてしまう。慌てて、他のポケットやカバンの中を弄るが出てくる気配がない。  何処かで落としてしまったのかもしれない。どうするべきか考えあぐねていると、階段を登ってくる音が聞こえてきた。  こんな姿を隣人に見られたら恥ずかしいなと、何気ない風を装いちらりと視線を向けてみる。  まさかの警察官がこちらに近づいてくるので、僕は思わず挙動不審になって、視線が泳ぎだしてしまう。 「もしかして、鍵を探してるの?」 「えっ‥‥‥」 「朝方、ここの住人の方が届けてくれたんだよ。部屋の前に落ちてたから、見かけたら渡してあげてほしいって」  まさかの展開に、僕は驚くばかりで言葉に詰まってしまった。  いつもは恐れていた警察官がこの時ばかりは、さすがは正義の味方!と心の中で舞い上がる。  それにこの警察官、よく見るとまだ若くて自分と歳が離れていなさそうだ。  威圧的な警察官のイメージから掛け離れた、優しそうな目元と緩く上げた口角が、どこか親しみやすさを感じさせる。それに何より美形で、全てにおいてバランスの取れた顔立ちだった。  女子にキャーキャー言われてしまうタイプで間違いないだろう。  将来安泰、イケメン、優しいの3種の神器の様な彼をほっとく女子はいないはずだ。 「違うかな?」  なかなか返事をしない僕に痺れを切らしたのか、彼が困った顔をした。 「あっ、すみません。多分僕のです」   渡された鍵を挿し込むと案の定、すんなりと扉が開く。 「開きました。ありがとうございます」  僕は思わず笑みが溢れてしまう。本当に良かったと、安堵の気持ちで全身の緊張感が一気に緩む。 「それなら良かった。申し訳ないんだけど、受取人の書類を書いてもらいたいんだ」  彼は持っていたクリップボードを差し出してくる。  まさかここで書けというのだろうか。この寒空の下、手が悴みペンを動かせそうにない。 「あのーすみませんが、家の中でもいいですか?」  言いつつもアピールするように、赤くなった手を広げる。それだけで凍てつく風が追い打ちをかけ、ますます温度が下がってしまう。 「本当は良くないんだけどねー」  彼は苦笑いをすると、「じゃあ、早く入って」と僕を部屋に促した。
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