ガマズミの花が揺れる時

2

　こんな可愛らしい花に、そんな執着心が秘められているとは。稔さんの優しさの中に隠された、僕に対する執着心にも少し似ている。
「まさか、先輩がそこまで玲に執着するとは、思ってもみなかったけど」
　すでに茫然自失している僕に、追い打ちをかけるように、将希が棚から一冊の卒業アルバムを取り出す。
　ペラペラとページをめくり、部活動のページで手を止める。
「知り合いから、先輩の写ってる卒アル借りてきた。これが、先輩」
　そう言って一ヶ所を指差す。4人の男子がカメラを持ってこちらを見ていた。指差された場所には、眼鏡をかけて陰鬱そうな表情の少年が写っている。顔立ちは整っているが、覇気がない。
　今の稔さんとは、明らかに雰囲気が違う。それに、今は眼鏡をかけていない。
「先輩ちょっと変わっててさ‥‥‥俺ちょっと怖くてあんまり、話ししたりしなかったんだけど」
　将希が苦い顔をする。
「お前のこと聞かれたときヤバイなと思った。だって、写真こっそり撮ってるとこ見ちゃったから」
　僕は目眩がして、思わずしゃがみ込む。
「だ、大丈夫か？ ごめんな。こんな話して‥‥‥。でも、お前が心配なんだよ」
　将希が慌てて、僕の隣にしゃがみ込む。
　将希の気持ちは嬉しい。でも、それ以上に僕はどうしたら良いのか分からなくなっていた。
「将希‥‥‥。僕、どうしたらいいのかな」
　思わず将希に縋り付く。将希は一瞬、驚いたように動きを止めて、ゆっくりと背中をさすってくれる。
「ごめんなさい。僕が将希の言うこと聞いていたら、こんな事にならなかったのに」
　涙が溢れてくる。辛くて、苦しかった。それ以上に、稔さんの事を本気で好きで、それなのに揺らいでいる自分が情けなかった。
　将希から話を聞いた時、確かに恐怖を感じた。でも、稔さんと出会ってあんな事をしても嫌悪感がなかった。微笑まれると、胸が一杯になってしまうのも事実だ。
　それに‥‥‥高校時代の稔さんは、今と違って覇気が感じられない。今ではあんなに、嬉しそうな顔や切ない顔。表情をころころ変えて、僕を見つめてくるのに。