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仕事が終わり、僕は由梨ちゃんから借りていた眼鏡を店長に預ける。
「今日はゆっくり休みな。明日の夜また、来てくれれば良いから」
眼鏡を受け取りながら、店長が微笑む。
僕は今日の夜もバイトが入っているのに、店長は気遣ってくれているのだろう。
「で、でも‥‥‥」
ただでさえ人手不足なのにと、僕は恐縮してしまう。
「大丈夫。ちゃんと代わりは用意したから」
昨日のうちに代わりを探してくれたのだろうか。僕は深々と頭を下げてお礼を言う。
「良いんだよ。これも店長の仕事の一つだからね」
こんな良い店長は、探してもなかなか見つからないだろう。僕は何度もお礼を言いながらお店を後にする。
とりあえず、帰ったらシャワーを浴びて寝よう。稔さんが来るのもきっと夕方ぐらいだろう。それまでに、酷い顔を何とかしたい。
アパートに着くと、いつものように階段を上がる。
視線を交番に向けると、稔さんが中で書類を書いていた。
ちゃんと仕事をしてるのかと、当たり前の事なのにホッとしてしまう。
それにしても、真面目に仕事してる姿はやっぱり格好良いなと思ってしまう。
まんまと惚れてるなと僕は苦笑をすると、静かに玄関の扉を開けて中に入る。
予想通り、スーツ姿の稔さんが夕方にやってきた。
僕の顔を見ると、少しホッとしたような表情になる。
「昨日よりはマシだね」
部屋に入りつつ、稔さんがホッとした表情を浮かべる。
「ご心配をおかけしました」
「ううん。僕こそごめんね」
コートと上着をハンガーに掛けると、稔さんが僕を優しく抱きしめた。ふんわりと甘い匂いが鼻先をくすぐる。
「稔さんってなんだか、甘い匂いがしますね」
「そうかな? 自分じゃあわからないや」
稔さんが体を離すと、2人でベッドに腰掛ける。
「稔さん……」
僕は緊張して、声が僅かに震えてしまう。
「……昨日、将希に告白されそうになりました」
いくら鈍感な僕だって、さすがに気づく。気づいてしまった以上、自分の心の中に留めておくことは、僕には我慢できなかった。
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