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 稔さんが息を呑み、唖然とした顔で僕を見つめる。 「君たちは……過去に付き合っていたんじゃないのか?」  僕は驚いて目を見開き、慌てて首を横に振る。 「居酒屋で君に恋人がいるのか聞いただろ? その時はいないって君は言ってたから……時仲くんとは友達に戻ったのかと思っていた」  稔さんは何を言っているんだろう。足元から強烈な不安と恐怖が駆け上がってくる。 「ちょ、ちょっと待ってください。いくら、僕が将希と仲がいいからって、付き合ってなんていませんよ」  僕は必死で否定するも、言葉尻が震えてしまう。 「そ、そうだよね。ごめん。なんか誤解してたみたいだ……」  眉間に皺を寄せて、稔さんが考え込んでいる。口では勘違いと言っているが、稔さんはなにか思い当たる節でもあるのだろうか。 「……稔さん。なにか隠してるんですか?」  聞かない方がいいと、頭のなかで警鐘が鳴っていた。でも、僕はとてもじゃないが落ち着いていられない。  もう、稔さんのことである程度は度胸が座ったのだろうか。  ここまで来たら、何もかも受け入れてやるという気持ちになっていた。  それでも稔さんは、どうするべきか考えあぐねていた。 「何言っても驚きませんから」  嘘でもここまで言わないと、言ってくれないだろう。僕は歪な笑みを浮かべる。 「高校の時……時仲くんに、玲くんと付き合ってるから近づくなって言われて……」  やっと、稔さんが口を開くも、僕は血の気が引いてしまった。 「で、でも、もしかしたら牽制するためにそう言ったのかもしれないだろ? だって、君あの頃モテてたし……」  稔さんが弁解するように言葉を紡ぐ。 「だからさ、時仲くんは悪くないと思うよ。僕が横から入って奪ったようなものだからさ」  力なく微笑む稔さんに、僕は胸を鷲掴みにされる。  敵意むき出しの将希に対しても、かばうなんて……。稔さんは、僕に負けず劣らずのお人好しだ。
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