372人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前さ‥‥‥」
将希が眉間に皺を寄せ、僕を押しやると距離を取った。僕は怒られると察知し、とっさに身構える。
「思わせぶりな態度取るのも、良い加減にしろよ。反省しないやつだな」
案の定、将希が静かに怒り出す。
「前回だって、お前が隣の部屋のやつに無駄に話しかけたりするから、その気になったんじゃないか」
今時アパートの住人同士で挨拶するのも稀らしく、その隣人は僕が気があるから話しかけて来たと勘違いしたらしい。
僕は普通に挨拶しているだけのつもりで、それが当たり前だとしか思っていなかった。
まさか、部屋にまで入り込まれてしまうとは思ってもみず、襲われそうになった時は一貫の終わりとまで思った。
たまたま警察官が巡回連絡で訪ねて来た事で難を逃れたが、引っ越しを余儀なくされてしまった。
「自覚ないのが酷いな。普通、初対面のやつを家に入れないから。たとえ相手が警察官だろうとな」
将希が呆れたように溜息を吐く。僕には警戒心のカケラもないと言いたいのだろうか。
これ以上は説教されるのはごめんだと、僕は慌てて話題を切り替える。
「そ、そういえば、春休みに入ったから明日から初めて夜勤入るんだよね」
「バイトってコンビニか?」
僕は大学の近くにあり、自宅から徒歩二十分ほどのフランチャイズのコンビニで週三日ほどバイトをしている。
いつもなら夕方の学校終わりに入るのだが、春休みに入ったことで、一気に稼いでおこうという魂胆だった。
「そうだよ。初めてだから不安だけど、稼げるから」
「夜遅いなら、なおさら気をつけろよ」
そう言って将希がチラッと腕時計を見ると、そろそろ帰ると腰を上げる。
「えっ、もう帰るのか? いつも帰るの早いよな」
僕は、少し拗ねたような口調になってしまう。
「どうせ、また来るんだし‥‥‥俺も家遠いんだからしょうがないだろ」
じゃあ泊まっていけば良いのにと思うのだが、言ったら言ったで怒られそうなので黙りこむ。
最初のコメントを投稿しよう!