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玄関に続く低木は、春の温かい空気に晒され緑色の葉を揺らしている。
その中の玄関近くの一角に、校庭でみたあの木が植えられていた。
インターホンを鳴らし、中から顔色が土気色な時仲くんが現れる。
「捕まえに来たんですか?」
玄関から外に出ると、後ろ手に扉を締める。
外に車が止めてあるところを見ると、親が家の中にいるのだろう。
「君の愛は、僕と変わらないぐらいの執着心を感じるけど」
いつも通り、僕は微笑みを顔に貼り付ける。
ゆっくりと、視線をガマズミの木に向ける。すでに白い蕾を付けていて、もうすぐ開花の時期を迎えるだろう。
「よりによって、先輩に奪われるとは想定外でした」
睨みつけるような視線を僕に向ける。
「こう見えて、僕もいろいろ努力したんだよ。警察官にまでなったんだからね」
――だから、
僕は微笑みを消す。
「もう、君の役目は終わりだよ」
自分でも驚くほど冷たい声が発せられた。
僕の言葉に唇を震わせ、時仲くんは俯く。
「玲くんには、もう会わないって言ってたと伝えておくね。あんな事しておいて、君だって顔を合わせられないだろ?」
「玲に……謝らせてください……」
訴えかけるように、僕の目を見つめる。
「その必要はないよ。これからは僕が玲くんを守っていくから……安心して」
僕は彼に封筒を渡す。その中には高校時代に玲くんを隠し撮りしていた、時仲くんの写真が入っている。
「酷いよね。人には犯罪だって言っておいて、自分はするんだから」
まぁ、気持ちは分からなくないけどねと付け加えつつ、僕は踵を返す。
時仲くんがどんな表情をしているか、僕には分からない。
でも、もう二度と玲くんには近づけないだろう。
僕は思わず、頬が緩んでしまう。
最も、邪魔な存在が一人いなくなったのだから。
後は玲くんの心を、完全に自分のものにするだけだった。
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