17人が本棚に入れています
本棚に追加
僕が六歳くらいの頃か。
「誠や、おめぇ、中々のサイズ上げよったな」
「でしょ?こいつが急にエサをひったくっていって。びっくりしたよ」
「ふむ、それは魚が勝手に針に掛かったんじゃ」
「結局釣り上げたんだからオーライでしょ」
「まぁ、釣った、というより、釣れた、じゃな」
チクリと刺す嫌味に多少むっとしたが、その時は目の前に横たわる魚の歓喜の鱗が輝かしかった。
そうして僕が八歳、もっと喜ばしいことが起きた。
「貴方は、誰?」
黒のショートカットの女の子、背丈は同じくらい。
「僕は、織色誠」
大きな瞳は更に開いて、僕の前に。
その瞳は黒く、そして、どこまでも奥深く彼女の後ろを照らす。
黒が見せる光、人間とは思えない気配だった。
彼女はひどく美しかった。
第一印象はそんな程度。
「君は?」
「私、常盤美里」
それが美里との出会い。
子供の頃はどんな夢も叶うと思っていた。
望めば手に入る。そして笑って。日々を生きる。
二人で釣り上げた魚はいつにも増して鱗が七色に煌めいた。
全ての景色が綺麗で。
あの頃は。
あの、頃は。
色鮮やかで水彩画のような記憶とは裏腹に、僕の気分はひどく陰鬱だった。身体中にまとわりつく濃い、油絵の具のようだ。
そのせいか、僕は呼び出しの放送に気付かなかった。
「誠、呼ばれたぞ」
大きな掌が肩を包んだ。弾かれたように見上げると茶髪の男。整った顔立ちの美男子だ。渋灰霜。
「ん、わり。考え事してた」
それとなく返しておく。
「んま、俺も呼ばれたし」
席を立つと美形顔が正面にきた。背丈は僕と同じくらい。
「着替えて集合だと。急がないと羽多隊長に怒られるぞ」
「今回は僕らだけか?」
移動しながら問う、特に意味は無い。霜も分かっている。
「みたいだ」
霜が答えると同時に更衣室へ入る。織色誠と書かれたロッカーから黒いロングコートを取り出す。
対人戦闘機「リバル」と戦闘する用の服だ。防弾、耐火や衝撃吸収の加工が施されている。
それを羽織りながら隊長のいる事務室に入った。
最初のコメントを投稿しよう!