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「さーて、次はあのクソ生意気そうなガキがターゲットだな」
とアステマは無邪気に微笑んだ。
彼が次にターゲットに決めたのは高校生くらいの男の子だ。彼は制服を着たまま桜並木に設けられたベンチに腰かけ、土手の下に流れる川をボーッと眺めている。
(…ほほう、進路の事で悩んでんのか。なになに……父親が外科医。母親は大学教授。兄が父親と同じ大学で……)
アステマはその男の子の背後にそっと近づき、彼の心の中を探る。
(来年受験だもんで、進路について迷ってる……と。ふむふむ。将来は寿司職人になりたいけど、言えば反対されるから言えない……。なるほどねー!)
アステマはニコニコしながら、右手を彼の右肩に置き、彼の左耳元でこう囁いた。
(まぁ、君は兄さんみたいに頭良くないからねー。違う進路を見出すのは良い手段だよねー。でもさ。君は兄さんに叶う訳ないから、逃げ道で寿司職人、て言ってるだけじゃん。君みたいな根性無し、誰も弟子になんか雇ってくれないよ……)
男の子は急に右肩が重くなったような気がして右肩を軽く回した。不意に左耳がむず痒くなった。右手で左耳をこする。そして何だかイライラが込み上げきた。
「くそっ」
彼は立ち上がって足元の石ころを拾い、川に思い切り投げた。
アステマはそんな彼の背後から両腕で彼を包み込みそして再び左耳付近で
(だけど僕達にとっては現実逃避、大歓迎だよ。そうそう、君は悪く無いよー。悪いのは大人だ。もうね、頑張る必要無いよー。バカバカしいじゃん、父も母もさー、兄さんだけ可愛がってさー)
少年はなんだか急に何もかもがバカバカしく感じられてくる…
(ねー、君は君らしくさー、他の事で活躍すれば良いじゃん!僕が力を貸してあげるよ。
ねー、芸能人になりたくない?テレビに出たり、映画に出たり、そしたら大嫌いな勉強しなくても、そして勉強出来なくても誰も何も言わないよ……)
少年は夢見るような笑みを浮かべる。
……芸能人になりてー。有名になったら、兄なんかよりも俺のが良いって父さん母さん思い直すべ! 俺、有名になりてー。そしたら、俺の事誰も馬鹿にしなくなるべ……
と感じた。
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