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心を見せて
ヒロは何故自分が毎日病院に来ているのか、確かな理由は分からなかった。
赤髪の奴が制服でポケットに手を突っ込んで、他の患者からは変な目で見られる事も少なくない。
相変わらず家に帰れば、
「ヒロくん京大だったら俊彦さんの後輩ね!」
だの、
「六法全書。今のうちから勉強しとけ」
だの、耳障りな事ばかり言われる。
今のヒロにとっては、病院だけが自分の居場所だとも思った。
今日も変わらず三一七号室を目指す。
ナースセンターの前を通ると、みちるさんにちょっと、と声をかけられ、二人は共同スペースに向かった。
「昨日はありがとうね」
「いや別に」
「それで......お礼の後に言うのもあれなんだけど、ミキちゃん、当分外出は出来なくなると思ってくれる?」
つまり、抗がん剤の副作用がもっと酷くなるという事。
「あいつ、肺がんですよね」
ヒロは下を向いたままみちるさんに聞いた。
「ミキちゃんが君にどこまで話しているのかわからないけど......仲良しの君には一応伝えておくわね」
みちるさんの口から発せられた事実は、まるで事実じゃないかのような、ヒロには到底信じられない事だった。
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ヒロとみちるさんは病室の前で別れ、ヒロは神妙な面持ちで病室のドアを開けた。
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