夜は静かに

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   泣く本人も、痛く詰まる喉に言葉を全部塞き止められて、涙ばかりが零れる。  コートのはらんだ暖かさが染みた途端にこうなったのだから、よくわからない。  強く肩を抱かれ、寄せられた顔さえ暖かい。  シェアハウスで暮らす、口が悪くてがさつで横柄で、会えばけんかばかりの、ただの同居人。  彼女にはこんなところを絶対見られたくなかったのに。  弱みを握られるくらいなら、見つからないままでよかったのに。  同じ泣き顔を見せるなら  彼に、来て欲しかったのに。  コートの中で香りに包まれ、やっと気が付いた。  たちまち、想いも涙もあふれ、意固地な気持ちを洗い流していく。  会いたい。でも。  後悔だけが流されず、重く留まっている。  息もできないのに、胸まで痛くなる。  彼に伝えられる言葉が無い。誰か。誰か。  こんなとき、何と言ったらいいか教えてほしい。  けれど今、力まかせに肩を抱いているのはこの同居人で。  嫌味でも言えばいいのに。馬鹿にすればいいのに。嘲って、どこかに行けばいいのに。  何も言わず、ただ横に居るから、涙が止まらない。  彼女が何で居るのか、自分は何で泣いているのか。  よく解らないまま、泣きたいから泣いた。  
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