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やっと震えがおさまった頃、コートを着せられた。
また並んで座る彼女は、独り言のように、ぽつぽつと喋り始めた。
「よくココまで来たもんだよ。……見つけたとき、ユーレイが居んのかと思った」
疲れた息を繰り返し、顔を拭いながら聞く。
「色々、行ったみたいだな。見かけた奴も居たけど、あんまり真っすぐ歩いてたモンだから、家出中たァ思わなかったらしいぞ」
何故か少し安心した。
その声をたどって、彼女はここまで来たという。
深呼吸を何度かして、顔をあげる。
雪はやんで、空には星が見えはじめていた。木立の向こうには、遠くいくつも窓明かり。
雪景色の公園はほの暗く、このベンチばかりが外灯に照らされている。
肩の雪を払った彼女が、こちらを向いた。
いつも通りいたずらを企むような顔に、たちまち気持ちが身構える。
「で。何ケンカしたワケ?」
「……覚えてません」
嘘だ。
ほんの、些細な事。すれ違いと、少しの嫉妬。
分かっている。
でも、出て行きたいならそうしろと言われて、出て行ったのは自分で。
彼に止められなかったのも確かで。
顔を覗き込まれ、考えが止まる。
彼女はそのまま笑った。
「はは、酷ェツラ。顔洗って来い」
たちまちむくれるが、半ば抱えるように立たされる。
この寒空で水道水は凍りそうに冷たかったが、泣き腫らした顔にはむしろ心地よかった。
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