Chapter.1

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【03】  昨夜とはうってかわって空は快晴だった。 今日は朝から気温が高い。 勇気は家を出て、思わず伸びをする。 その顔の下半分をマスクが覆っている。 昨夜、千尋に雪を掛けられた上に その後も 長時間外に居たのだから 風邪をひいても不思議ではない。 その時ちょうど千尋も出てきた。 今日もまたご丁寧に あの赤い眼鏡を掛けている。 相変わらず 勇気が存在しないかの様な振る舞いだ。 千尋は道へ出ると そのままコチラへ背を向ける。 勇気はため息混じりにカバンを肩に担ぎ、  高校へ向かおうとした。 「馬鹿ゆーき!」 声と共に背中に雪をぶつけられた。 勇気は驚いて振り返る。 千尋はわざわざ赤い眼鏡を外すと 右目の下を引っ張って舌を見せる。 「ベーッだ! ぜったい お礼なんて言わないんだから!じゃね!」 そして勇気と反対方向に走り出した。 「…ったく、可愛くねえ」 勇気は思わず頬を緩めた。 そして、隣の屋根を見上げる。 分厚い雪がゆっくりと溶け始めていた。
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