Chapter.1

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「おい、千尋!」 「気安く呼ばないでくれる?“水嶋”くん」 驚いた、 昔は「勇気」と呼んでくれていたのに そこまで距離を開けてくるとは。 呆気にとられる勇気をよそに 千尋はドアを閉めようとするが、 一瞬だけ手を止める。 「…どーも、ありがとうございましたー」 千尋は棒読みで頭を下げると扉を閉じた。 勇気だけがその場に取り残される。 「ったく、可愛くねえ」 負け惜しみを言いながら帰ろうとすると 手にビニールを持った 千尋…、雪城の母親に出逢う。 「あ、どうも」 「あら、勇気くん。 ウチに回覧板届けてくれたの?」 「ええ、まあ」 「偉いわね~。千尋には会った?」 「ま、一応は」 一瞬視線を落としただけで おばさんは勘づいたようだ。 「ごめんなさいね。 あの娘、最近委員会の仕事とかで 苛ついてるみたいなのよ。 ホントは勇気くんに会いたがってるのよ?」 「そうは見えなかったッスけどね…」 「また今度遊びに来てあげて。 じゃ、水嶋さんによろしく」 そう言って おばさんも扉の向こうへ消えて行った。 勇気は雪城宅を一瞥する。 「二度と行かねーよ」 勇気は肩をブルッと震わせ、自宅へと戻った。
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