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「おい、千尋!」
「気安く呼ばないでくれる?“水嶋”くん」
驚いた、
昔は「勇気」と呼んでくれていたのに
そこまで距離を開けてくるとは。
呆気にとられる勇気をよそに
千尋はドアを閉めようとするが、
一瞬だけ手を止める。
「…どーも、ありがとうございましたー」
千尋は棒読みで頭を下げると扉を閉じた。
勇気だけがその場に取り残される。
「ったく、可愛くねえ」
負け惜しみを言いながら帰ろうとすると
手にビニールを持った
千尋…、雪城の母親に出逢う。
「あ、どうも」
「あら、勇気くん。
ウチに回覧板届けてくれたの?」
「ええ、まあ」
「偉いわね~。千尋には会った?」
「ま、一応は」
一瞬視線を落としただけで
おばさんは勘づいたようだ。
「ごめんなさいね。
あの娘、最近委員会の仕事とかで
苛ついてるみたいなのよ。
ホントは勇気くんに会いたがってるのよ?」
「そうは見えなかったッスけどね…」
「また今度遊びに来てあげて。
じゃ、水嶋さんによろしく」
そう言って
おばさんも扉の向こうへ消えて行った。
勇気は雪城宅を一瞥する。
「二度と行かねーよ」
勇気は肩をブルッと震わせ、自宅へと戻った。
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