(1)LALAさんへのバトン

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「ほひ~、いつになったら着くんだよ・・・。俺ぁもうクタクタだぜ。」 ザラゾーは泳ぎながら器用に頭だけを180度回転させると、背中に乗っている私のことをギロリと睨む。 「もうすぐだよ。航海は順調順調。」 私はザラゾーの背中の上でチャプチャプと心地良く揺られながら、満点の星空を眺めていた。島根の夜空は、星がこぼれ落ちそうな位はっきりと見えた。 「何が順調だよ!!黒潮を逆流して泳ぐのは、さすがの俺様もくたびれちまったよ~。」 私達は、高知県の沖の島の西を北上し、豊後水道から周防灘を経由して関門海峡を抜け日本海に出た。そこから、対馬海流に乗って北東に進みようやく目的地の島根県が見えてきた。 ただ、見えてきたからと言っても、東西に長い島根。LALAさんの住む出雲の街※はまだ遠かった。 (※すいませんが、勝手な私の妄想でLALAさんは出雲に住んでいる仮想設定となっています。ご了承下さい。) 『ぎゅるるるぅぅ~。』 「うう、腹減ったなぁ。ああ~、門司港の定食屋で食った辛子明太子美味かったなぁ。明太子とご飯がおかわり自由なんて流石にご当地は太っ腹だったなぁ。」 ザラゾー、お前も別の意味で十分太っ腹だよと思ったが、言葉に出すのは辞めた。 「もうすぐ出雲だよ。出雲と言えばそばで有名じゃないか。着いたらおそばを食べに行こうよ。」 「よっしゃあ。俺はそばがきを山盛り食うぞ。」 遠くに街の灯が上下に揺れて見えた。あの明かりの多さは、結構大きな街ではないだろうか。きっとあれが出雲の街だ。 「着いたよ、ザラゾー。私達は遂に出雲までやって来たんだ。」 太古の渡来人たちも、こうして日本海を渡って出雲の地にやって来たのだろう。万里の波濤を越え、遠目に灯された篝火を見た時、彼らは自分たち以外の人の存在を知ってきっと安らぎを覚えたに違いない。 渡来人たちは、鉄の文化を日本にもたらした。出雲から南東の山奥の奥出雲一帯には今もたたら文化を脈々と伝承している人々がいる。 そう思うと、何故か目頭が熱くなった。 「どうした、辰彦。お前、何泣いてんだよ。航海がそんなに辛かったのか?お前は昔から泣き虫だからなぁ~。」 「ち、違うよ。ちょっと塩水が目に入っただけだよ。」
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