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「後ろ向いてて! 絶対振り向くなよ!」
仕方なく、朱莉の指示に従った。
「邪気退散! はー!」
朱莉の声が聞こえてきた。お札を貼るだけだから掛け声なんていらないのだが。
「よし、終わった。お兄ちゃん、もういいよ」
「あれ、私は何を……?」
薫さんは正気に戻った。
俺は薫さんの近くに赴いた。
「もう大丈夫です。悪霊は退治しました」
「そうですか。ありがとうございます。気のせいか、家の雰囲気が明るくなった気がします。でも私さっきまで怖い夢を見てました」
薫さんは泣きながら、俺に抱きついてきた。
女性ものの香水の香りがした。
「安心してください。もう大丈夫ですよ」
俺は微笑みながら薫さんをゆっくりと引き剥がした。
これ以上、抱きつかれたままでいた、朱莉にしばき倒されそうな気がする。
さっきから悪霊に勝るとも劣らない禍々しい殺意が朱莉から感じられれ。
「あの、また連絡してもいいでしょうか?」
「幽霊の件ならいつでも。それよりも、後でお支払いお願いしますね。それじゃ帰るぞ、朱莉」
冷静な口調でそう言い放った。
相談者とは深く関わらない方がいい。
俺はそう思っている。
「待ってよ、お兄ちゃん」
俺と朱莉は家から出た。
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