櫂と天音

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櫂と天音

カシャ スマホのシャッター音が静かな楽屋に響く 再び訪れた静寂に、規則正しい寝息がまた聞こえてくる もう、何枚撮っただろうか コイツの寝顔を見ると何故かシャッターを切りたくなる それは男同士、同じ仕事をするもの同士 家族よりも長い時間を共にしてきた同士 モデル、俳優業という特殊な環境に身を置くなかで 忙しいスケジュールを縫っての、束の間の休息 その苦労を分かち合える距離だからこそ こんなに穏やかに眠れることの意味が 何よりもダイレクトに伝わってくるのかもしれない 誰かが茶化したように 恋であるはずなど勿論ない 「ん……あれ、もう時間?」 「いや、まだ。」 椅子を引き寄せて鏑木(かぶらぎ)の側に座る 「え、もしかして撮ってたの?」 それ、と俺の持っていたスマホを眠そうに指差す鏑木 「お前に言ったら盗撮にならないだろ」 「……やっぱ一条(いちじょう)くん変態」 「はぁ?変態じゃねーし」 飲み物でも取りに行こうと立ち上がり、数歩 「ねぇ……一条くん」 「ん?お前、何飲む?」 振り返らぬまま選んでいると 「おれ、一条くんがいい」 「何だよそれ、どーいう意味……」 「振り返らないで。 そのまま聞いて。 ……一条くん、撮るのは俺だけにして」 「お前、」 恋であるはずなど、勿論…… 飲み物なんかどうでもよくなって 鏑木へと近付いた 「じゃあ次は、ベッドな」 「一条くん、何それ? そんなセットどこにあるの?」 「ばーか。 俺んちのベッドに決まってるだろ」 「……えっ、 え? えぇーっ!?」 真っ赤になり分かりやすくテンパる鏑木の頬に わざと音を立ててキスをした 「お前は俺が貰った 今後他の奴らとイチャついたらお仕置きだからな じゃ、俺先に行くわ」 自分で言っておきながら急に恥ずかしさが込み上げてくる ドアを閉めようとした瞬間 「……本当に?楽しみにしてる」 「お前、……言ったな。覚えとけよ」 これが恋であるはずは……多分、ない けれど今の、この感情を言葉にするならば ……たぶん、【恋】だ
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