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ヴェレティンまであと数日になった。ハンカチーフはほとんど完成していた。
刺繍の最後の仕上げをしていると、メイドのローズマリーがシャロンの自室に入ってきた。
「あら、どうしたのかしら。何か頼んだかしら」
「いえ……その、シャロン様はヴァレンティンはどうされるんですか?」
「ええ……アルジェにハンカチーフを贈ろうと思うの」
「本当にシャロン様はアルジェ様に、お気遣いして……」
「そんな大変なことじゃないわ」
「いえ、過ぎた行為ですわ。シャロン様……あの男は本来奴隷であってもおかしくはないんです」
「ローズマリー……あなた何を言って」
するとローズマリーはいきり立ったように、シャロンの手を取った。
「だって、シャロン様という身分のお方が、手を傷だらけにして裁縫するなんておかしいじゃないですか」
「あなた……それを知っていたのね」
ローズマリーは激しく頷いた。
「血などは見ていません。でも刺した針の痕はわかりますわ。どうして、奥様がそこまでするのです。ジェリダ家からのご指示でしたら、分かりますが!」
「私の家とヴァレンティンの贈り物は関係ないわ。私がただ贈りたいから、感謝を伝えたいから、やっているだけよ」
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