飼い殺しな王子と魔女の花嫁

13/16
前へ
/16ページ
次へ
「何も得はありませんっ。おやめになるべきです。男が図に乗るだけです」 「あなたにとってアルジェは主でしょう……どうして、そこまで言うの」 「あいつは悪鬼の国の息子……そうされて当然なのです!」 「……悪鬼の国?」 「あの男の出身地、ウラノスは黒髪の鬼がいると言われているところです。そんな野蛮な国から来た男がまともなはずがありません。何を吹き込まれているのか知りませんが、奥様はだまされているんです」 「……」  シャロンは一息ついた。 「どうしてそう言うのかしら、ローズマリー」 「どうしてって、それは……!」  シャロンはローズマリーの言っていることが一般的な認識だと分かっていた。分かっていたが、疑問を呈さずにはいられない。 「あなたは、私の夫を侮辱したのです」  シャロンは頭を傾げる。 「それをされた私の気持ちが分かるかしら」  ローズマリーは唇を噛みしめ、シャロンに強い視線を向けた。 「では、言わせていただきます。シャロン様!」  ローズマリーは肩を震わせる。 「悪鬼の国の息子の側に、どうしていられるんですか! 私なら床を共にするのも、耐えられないっ」  ローズマリーの目には不快な感情しか浮かんでいない。そうか、あの人はこんなに……と思うとシャロンの胸は張り裂けそうになった。 「私は耐えられますわ。あの人と共にいられるのなら……」  ローズマリーの顔色が悪くなる。感情が混乱の極みに走ったのか。  「信じられないっ。ジェリダ家の令嬢なのに……!」と叫んだ。  シャロンは何も言わなかった。  するとローズマリーはテーブルの上に置いていた、作りかけのハンカチーフを掴むと、思い切って踏みつけた。シャロンが慌てて、ハンカチーフを取り戻したとき。大きな傷や汚れが付いていた。 「お願いです、シャロン様。目をお覚まし下さい」  シャロンはハンカーチーフを胸に抱き、ローズマリーに背中を向ける。  もう、限界だった。自分の顔がひどく怒りで醜くなっている。  シャロンは感情を殺して言った。 「ローズマリー。今日を限りに、この屋敷を出て行きなさい……」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加