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「何も得はありませんっ。おやめになるべきです。男が図に乗るだけです」
「あなたにとってアルジェは主でしょう……どうして、そこまで言うの」
「あいつは悪鬼の国の息子……そうされて当然なのです!」
「……悪鬼の国?」
「あの男の出身地、ウラノスは黒髪の鬼がいると言われているところです。そんな野蛮な国から来た男がまともなはずがありません。何を吹き込まれているのか知りませんが、奥様はだまされているんです」
「……」
シャロンは一息ついた。
「どうしてそう言うのかしら、ローズマリー」
「どうしてって、それは……!」
シャロンはローズマリーの言っていることが一般的な認識だと分かっていた。分かっていたが、疑問を呈さずにはいられない。
「あなたは、私の夫を侮辱したのです」
シャロンは頭を傾げる。
「それをされた私の気持ちが分かるかしら」
ローズマリーは唇を噛みしめ、シャロンに強い視線を向けた。
「では、言わせていただきます。シャロン様!」
ローズマリーは肩を震わせる。
「悪鬼の国の息子の側に、どうしていられるんですか! 私なら床を共にするのも、耐えられないっ」
ローズマリーの目には不快な感情しか浮かんでいない。そうか、あの人はこんなに……と思うとシャロンの胸は張り裂けそうになった。
「私は耐えられますわ。あの人と共にいられるのなら……」
ローズマリーの顔色が悪くなる。感情が混乱の極みに走ったのか。
「信じられないっ。ジェリダ家の令嬢なのに……!」と叫んだ。
シャロンは何も言わなかった。
するとローズマリーはテーブルの上に置いていた、作りかけのハンカチーフを掴むと、思い切って踏みつけた。シャロンが慌てて、ハンカチーフを取り戻したとき。大きな傷や汚れが付いていた。
「お願いです、シャロン様。目をお覚まし下さい」
シャロンはハンカーチーフを胸に抱き、ローズマリーに背中を向ける。
もう、限界だった。自分の顔がひどく怒りで醜くなっている。
シャロンは感情を殺して言った。
「ローズマリー。今日を限りに、この屋敷を出て行きなさい……」
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