飼い殺しな王子と魔女の花嫁

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「悲しいだろう、辛いだろう。気にかけてる男を侮辱されれば、そうになる。人間が嫌になるだろう。なあに、君は人間なんて止められる。本当に魔女になれば……」  シャロンは冷めた目線で悪魔を見る。 「言いたいことはそれだけですか、悪魔」  シャロンはハンカチーフだった布を丸め、そして呪文を唱えた。 「ロクシャシャの炎に染まれ」  灰もなくなるほど、一気にハンカチーフは燃え上がる。悪魔は炎の魔術を使ったシャロンに目を丸くした。普段はほとんど魔術を使わないシャロンが魔術を使う。何事だと思ってしまった。 「もう、いいんです……これは」  シャロンは強く目をつむる。 「もう……」」  ローズマリーの悲壮な顔を思い出して、シャロンは胸が苛まされた。あまりのことにクビにしたが、あの子がいうこともまた正しいと分かっていた。心の迷いを振り切るように、クローゼットから裁断した布を取り出す。 「作り直しましょう。落ち込んでいる内に、ヴァレンティンがきてしまいます」  シャロンが一からやり直す選択をしようとしている悪魔はあまりのことに大きく笑ってしまった。 「魔術でハンカチーフを修復すれば良かったのに」  シャロンは感情をこらえて頭を横に振る。 「いいのです……渡すのなら何もなかったハンカチーフがいい」  悪魔はシャロンを指さす。」 「時間がないぞ、出来るのか」 「し遂げるのです。何、一度作れたのですから簡単です」  からからと笑う悪魔に、シャロンは毅然として言った。  虚勢にしか見えないだろうと思った。でもシャロンはやり遂げようと思った。アルジェに贈り物と感謝を贈りたい。その道にどんな困難があっても、一度決めたからには、簡単に屈せない。 ――ここで、諦めてたまるものか。  たとえどんなにアルジェが世界から疎外されて、孤立しても、自分はアルジェの隣にいよう。シャロンは寝る間も惜しんで、ハンカチーフ作りにいそしんだ。
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