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「あ……」
シャロンに手渡されたハンカチーフに、アルジェは言葉を失う。
何とか間に合わせたハンカチーフ。隅には四つ葉のクローバーの刺繍をあしらったものだ。見てくれは悪くないはずなのだが……何かいけなかったのだろうとシャロンは心臓をどきまぎとさせる。
「何かまずかったでしょうか、アルジェ」
「いや……唐突すぎて驚いただけだ」
確かに唐突といえば唐突だった。夕食も終わり、二人で図書室で本を読んでいた。 いつもと変わらない日常で、シャロンがハンカチーフをプレゼントしたのだが……アルジェの驚きようはあんまりだ。シャロンは疑問を感じる。
「唐突……? アルジェはヴァレンティンについては何も知らないのですか」
日にちとしては間違えていないはずだ。
「ヴァレンティンは知っている。これがその、贈り物なのか……?」
シャロンは大きく頷いた。
「ええ。私、あなたに贈りたかったんです」
「なんで……」
「感謝を伝えたかったんです。あなたに」
「え」
アルジェの顔は驚愕に満ちていた。心底ありえないことが起きているように、見える。シャロンはおずおずと聞いてみた。
「ご迷惑でしたか?」
「いや……」
アルジェは顔を腕で隠す。しかし耳は真っ赤に染まっていた。シャロンは思わず花が咲き誇るような笑みをこぼす。
アルジェは困ったように言った。
「すまない……ヴァレンティンの贈り物なんて初めてで」
「私も初めてなんです。今年初めて聞いたくらいで。贈ったことがありません」
「そうか、初めてだったのか」
「はい……私を育てた世話役は、ヴァレンティンについて教えてくれなかったので」
シャロンは躊躇うように頭を下げた。
「きっと……私に余計な心の枷をつけさせないようにと考えてでしょう」
「殺された……という話だったな。世話役は」
「ええ……」
シャロンは唇を一文字にした。感情をこらえようとした。こんな話は楽しくない。だから、笑おうと努力した。するとアルジェが急に抱きしめてきた。
「アルジェ……?」
「シャロン、来年は俺も、ヴァレンティンの贈り物を用意しよう」
「え、ええっ」
シャロンは慌てふためいてしまった。自分があげることばかり考えていて、もらうということを考えていなかったのだ。
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