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お茶の時間になる。スコーンやサンドイッチ、ケーキが置かれたケーキスタンドが華奢な足のテーブルに置かれた。メイドのローズマリーが紅茶を煎れる。花のような香りがする紅茶に心が躍った。ティーカップの繊細なデザインと、紅茶の色を楽しみ、それからたっぷりとミルクピッチャーからミルクを入れる。
ふと外を見ると、重い灰色の雲から、雪がちらちらと舞い落ちていた。シャロンの住むガーリェ国も穀物の女神が嘆く季節となり、寒さが一段と増している。
「今日も、穏やかね……」
「そうですね。特に何事もなくて……ただ天気が悪くて、冷え込みますね」
「ええ……こんな時に、アルジェはいったいどこにいったのかしら」
「シャロン様は、その、主様をよく気にかけますね」
ローズマリーの表情は浮かない。シャロンは小首を傾げる。
「あら、旦那様のことを気にかけてはおかしいかしら」
「悪くはないとは思いますが、その、シャロン様の方が……」
伺い立てるようにこちらを見るメイド。言いたいことはよく分かる。
今でこそガーリェ国の王子だが、アルジェはかつてあった隣国の皇位継承者だった。滅びた国の王族の存続……それだけのためにガーリェ国にやってきた。飼い殺しの王子。
そんな男の嫁であるシャロンは、国の有力な貴族であるジェリダ家の次女である。
王族につながりあるシャロンの方が、アルジェより格上だ。メイドもそのことを分かっているから、アルジェを想うシャロンに違和感を持つ。
――あんな王子は気にかけるものではない。
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